語り継がれたこと

2500年くらい前に 私の心は石でないから 転がすこともできない と詠んだ人がいて それが詩経に収められて 後世に伝わることになって 1500年くらい前に 私の心は石でないから 転がすこともできない というところを読んだ人が 石は無常なものの象徴だって 言い出したりして 800年すこし前に 二条院讃岐という人が 石に寄する恋という題で 私の袖は干潮のときにも見えない沖の石みたいに だれも知らないだろうけど乾くまもない って石の無常を詠んで 300年くらい前に 二条院讃岐は 歌のうまかった人だったって 恋多き人だったって つらい人生を歩んだ人だったって そんなことが言われだして 私たちは 2500年前の いったいなにを知っていて 1500年前の いったいなにを知っていて 800年前の いったいなにを知っていて 300年前の いったいなにを知っているかって そう問えば じつはなんにも知らないんだって ぜんぶが想像でしかないんだって そういう答えが返ってくる 2500年前に 私の心は石でないから 転がすこともできない と詠んだ人が なにを思っていたのか 1500年前に それを読んだ人が なぜ石が無常なものの象徴だって 思ったのか 800年前に 二条院讃岐は なにを思ってあの歌を詠んだのか 300年前の人は 二条院讃岐の なにを知っていたというのか 私たちのように 300年前の人も 800年前の人も 1500年前の人も 2500年前の人も なにも知らない それでも定説は まるで真実かのように 語り継がれる